何処へ行こうとも、人は単なる訪問者に過ぎない。しかし、ちょっ
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とした巡り合わせで人と人との繋がりができる。このシンポジウムが |
まさに−期一会の始まりだった。お互いを知り合えるまでさしたる |
時間はかからなかった。 |
私の作品は二つの木の物語。その木は普段、採石工場の中で大 |
きなダイヤモンドカッターが石を切る時、石の下敷きとなるもの。 |
機械が切断を終わる度、木の表面には同じ小さな傷が残る。繰り返 |
し使われ、この木は変型し、思いもよらない形になる。その木を始め |
て見た時、私の中に性質の異なる二つの交わりという発想が過った。 |
黒と白の二つの石に溝(幅3cm、深さ6cm)を彫る。無数に彫られた |
溝はどこかで二つの石を結びつける。それこそがまさに、人々の調 |
和と関係が始まるところなのである。石の表面に刻まれた傷のよう |
に、人生にはいくつもの経験が刻みこまれている。人はその経験を |
姿に見る事はできないが、内に抱え、似た状況下におかれることで |
再び思い出す。 |
大田原でのこのシンポジウムは人々を繋ぎ、それぞれの経験と |
観念が交わる場となった。そしてまた、物語はここから新たな場所 |
へと続いてゆくのである。 |